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rainfiction

アマチュア映画監督 雨傘裕介の世に出ない日々です。

女をめぐる冒険−『チェイサー』

DVDで『チェイサー』を鑑賞。


ナ・ホンジン監督の新作『哀しき獣』が絶賛されており、何とも観たい映画なので、予習のつもりで観た。


比較対照として『殺人の追憶』や『息もできない』といった韓国映画の名作が挙げられるだろう作品だが、前者は社会を志向し、後者は個人を志向しているのに対し、『チェイサー』はその中間といった感じ。




興味深いのは、主人公ジュンホのキャラクターが「女性」によって補完されていくプロセス。デリヘルの元締めであり元刑事のジュンホの出自はほとんど語られていない。過去に家庭を持ったとか、女性とのトラブルでドロップアウトしたとか、そういった情報は一切無く、当初は「女性」を「商品」と見なす存在として規程されている。


下手な監督ならば、キャラクターの奥行き、とか言いつつ、ジュンホの過去、キャリア、バックグラウンド、家庭環境、育ちなどを盛り込むのだろうが、今作では画一的で一面的であることが、物語の大きな前提となっている。そこが上手い。


商品である女性が虐げられていることを察し、個人商店主のような泥臭い怒りと恨みを纏い「ワシの商品コケにしくさってぇ!」と路地を駆け巡る。
だが、前半の怒りと、物語後半のそれは、大きく変質している。その要因はつまり「女性」だ。


ジュンホの中で特定の「女性」に対する意識が変質する、という単純な話ではない。
もう一人の主人公である犯人=殺人鬼の存在によって、ジュンホの怒りは変質する。


女性を害する存在である彼らは対照ではなく、どこかで繋がっているように見える。
善悪対立でもなく、ただそれぞれにヒステリックに、女性を巡ってチェイスする。
だからこそ、女性キャラの配置が非常に考えられている。
特に、女刑事の配置などは、さりげないけど、非常に効果的。
観客が「オイオイ、大丈夫か?」と思えるような環境に身を置く女刑事の存在は、サスペンス面でも、風刺面でも、そこはかとない緊張感を与えてくれたりする。


そして何より、あの女の子!
画一的であるジュンホに奥行きを一発で与える存在。一点突破の作劇。
ジュンホの激情は彼女を土台にすることで、大きく変質するのだ。


観たシーンのそれぞれが強く印象に残り、テンションを下げずに見ていられる映画だ。
こういう映画があるから、やっぱり映画は面白い。
韓国映画は勢いが衰えませんなぁ。


というわけで『哀しき獣』は必ず見ようと思っているのだ。